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 裁判員裁判          (藤田 裕)
 現住建造物放火事件
現住建造物放火事件で、執行猶予判決を得ました。現住建造物等放火(刑法108条)の法定刑は、死刑または無期あるいは懲役5年以上と、とても重い法定刑が定められています。これは日本の家屋は火事に弱く、延焼して公共に危険を及ぼすため法定刑をとても重くしています。
私が担当した事件は、年若き男性が人生を悲観し、自殺する目的で自室に火を放ったというもので、同じマンションに住む住人にとってとても危険な行為だったといえます。
刑事事件では、行為の危険性と生じた結果について、それぞれに如何にフォローしていくかが重要となります。
今回の事件では、自殺する目的は自分勝手であるという評価があるものの、その内容を裁判員に理解してもらうこと、自殺する動機が解消されたことによって二度と同じ過ちを犯さないということも理解してもらうこと、そして、放火によって損害を被った人たちにできる限りの弁償をすることが獲得目標となりました。
まず、自殺目的を理解することは、本人でない他人にはとても難しいことです。人生の中でおこる出来事は人それぞれの受け止め方で大きく変わります。なぜそのように感じるのか、なぜそのように考えるのか、それを理解することが始まりとなります。これが本件では一番難しかったように想います。
また、それを理解する過程で、人の心の問題を扱う臨床心理士に協力を求めました。私たちは法律家としてはプロですが、その他の分野にはそれぞれ専門家がいますので、連携して原因究明に努めました。医療も建築もそうですが、弁護士は法律家でしかなく、それぞれの専門分野を扱う事件では、協力体制が不可欠です。本件では、今まで自分の内面に向き合えず、悩みを人に話すこともできなかった被告人にとって、有意義な弁護ができたと想っています。その過程の中で、自分自身を見つめ直し、なぜ犯罪を犯したのか、被告人本人が理解したことが一番の成果だったといえます。
そして、マンションの住民から「実刑判決は望まない」「執行猶予を望む」という上申書を得ることができました。被害者との示談交渉は弁護士の重要な仕事ですが、必ずしもうまくいくわけではありません。特に、何ら自分には責任がないにもかかわらず、突然被害を被った方にとって、そのギャップを埋めることは至難のわざです。被害者といかに向き合うか、事件によって様々です。本件では、近隣住民の方々の優しさと、それまでの被告人の行動が上申書という形になりました。被告人は、放火という大それたことをする反面、普段の生活ではきちんと挨拶をし、礼儀正しい面をみせる心優しい人間でした。それ故、近所の人も被害を被ったにもかかわらず寛大な心を見せてくれました。東北地方を襲った大地震の被害者に対する対応と同様、日本人の心の優しさを感じることができました。
そのような経過と、被告人の反省、考えたこと、これからの事を詳細に裁判員に訴えることにより、本来の法定刑を下回る寛大な判決が生まれました。
被告人が自首したことが減刑の理由ともなっていましたが、それだけでは放火事件で執行猶予を得ることは難しかったと想います。それは、最後に裁判員のメッセージという形で現れました。人は誰でも挫折する、それを乗り越えてこそ人生は開けるものである、今回のことを真摯に考え、今後の人生を生きて欲しい。裁判員からのメッセージが裁判長により朗読された際、被告人を含めて、裁判所全体に、今までの刑事裁判になかった一種の感動が広がりました。
刑事裁判の目的には、二度と同じ犯罪を犯させない、被害者を出さない、ということがあります。罪を認めている事件(自白事件といいます)では、この目的を重視して弁護する必要があります。それをいかに裁判員に伝えるのか、裁判員裁判は新しい裁判なのだと、改めて認識した、貴重な体験をしました。
      
 
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